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「老後2000万円不足」でちょっと考えた

· 時事問題

1円でも多く事業主負担と税投入を増やせ!!

老後の生活費が2000万円不足するとした金融審議会の報告書をきっかけに公的年金制度をめぐる議論が起きています。「100年安心の年金」と宣伝してきた安倍内閣は参院選を前に動揺し、麻生大臣は自分で諮問しながら報告書の受け取りを拒否する大醜態をさらしています。
 

日本の公的年金制度は、誰しも働き始めれば厚生年金に、学生や自営業も20歳になれば国民年金への加入が義務で、65歳から老齢年金が受給でき、何歳まで生きても死ぬまで年金を受給できる、いわゆる国民皆年金制度となっています。
 

公的年金には遺族年金や障害年金もあり労働者の人生で重要な位置を持っています。老齢年金については65歳以上の高齢者世帯の平均所得の7割が公的年金です。年金以外に収入がない世帯は実に約6割に及びます。かつて高齢者の生活を支えた子どもからの仕送りは今や1%にも満たないのです。昔と違って子どもによる私的扶養から公的年金制度による社会的扶養になっているのです。
 

100年安心の正体
日本の公的年金制度は、いわゆる2階建ての仕組みとなっており、1階部分の「定額保険料→定額年金」の基礎年金(国民年金)と、2階の「報酬(賃金)比例保険料→報酬比例年金」の厚生年金の組み合わせとなっています。
 

労働者を対象とした厚生年金は15年に民間と公務員が統合されて、約4000万人が保険料を払っています。厚生年金の受給者は約3500万人。
 

保険料は、報酬(賃金)に18・3%の保険料率を掛けます。労使折半なので労働者の負担は9・15%ということになります。
 

学生や自営業者などが加入する国民年金は1階の基礎年金の保険料しか払っておらず受給も1階部分だけです。ですが厚生年金の場合は、1階の基礎年金にも厚生年金保険料の一部を拠出金として出しており、1階と2階の両方の年金を受給できる仕組みになっています。
 

年金の保険料とその給付水準については、04年に保険料水準の固定方式とマクロ経済スライドが導入されました。
 

ごく簡単に説明すると、保険料については04年から毎年0・354%ずつ値上げし、17年で固定する(18・3%で固定)、年金支給額については、保険料を払う労働者の数が減少したらその分だけ支給水準を下げる。また平均余命が伸びれば、やはりその分の支給水準を下げる。
 

つまり保険料を払う労働者の人数、年金を受け取る高齢者の平均余命に合わせて年金水準を強制的かつ自動的に下げる仕組みになったのです(ただし、賃金・物価の上昇率がマイナス、あるいは調整率の下げ率より大きい場合にのみ、マクロ経済スライドは発動される)。

 

これが「100年後も安心の年金制度」の正体なのです。だから老後の生活資金が足りなくなるのは当然なのです。今回の金融審議会の報告書は、ある意味、年金制度の実態を正直に明らかにしただけなのです。
 

企業負担を増やせ
年金だけでなく、医療や介護保険も同じく大変な危機に直面しています。こちらは財政問題だけでなく、医療・介護供給体制の崩壊(人手不足!)がより深刻な問題になっています。

財政について少し指摘するならば、公的資金(税)の投入を増やすことはもちろん当然ではありますが、フランスなどでは企業の保険料負担が8割であり、可能な限り企業の負担を増やせば良いのです。
 

例えば労災保険の保険料は全額が事業主の負担です。労働者を使用して企業が利益を得ているわけですから、業務上の災害は、かりに労働者の過失であってもすべて事業主の責任です。当然といえば当然のことです。
 

これと同じように年金や医療保険についても、労働者を雇用して企業が利益を得ている以上、その生活や健康を企業が保障することは当然のことです。老齢年金についても、若くて健康な時だけ労働力を使用することは企業の身勝手であり、高齢期の生活についても企業が責任を負うことは当然です。それが社会保険という仕組みで行われているのです。だから1円でも多く、事業主の保険料負担を増やすべきだと思います。
 

しかし、多くの企業は社会保険料の負担を免れるために短時間パート等の非正規雇用を多用するなど、あらゆる手段を尽くして保険料の支払いを免れています。2000年の介護保険の導入の際には、日経連は保険料の事業主負担に大反対しました。
 

「1億総活躍」「人生100年時代」などと安倍政権は「死ぬまで働け」とばかりに年金の受給開始年齢の引き上げや〝自助〟を強調するなど、政府として高齢期の労働者の生活を支えることができないのであれば、もはや存在意義はない。退場願いたい。